群馬県桐生市を歩けば、まるで時代を遡るタイムトラベルを体験できます。
「西の西陣、東の桐生」と称された織物の街は、江戸時代から続く商家の佇まいと明治・大正時代のノコギリ屋根工場が織りなす独特な景観を今も大切に保存しています。
石畳の道に響く足音、格子戸から漏れる温かな光、そして街角に残る古い看板の数々が、懐かしい日本の原風景へと招待してくれる、そんな魅力的な街「桐生」の街並みを紹介します。
桐生とは?織物産業で栄えた歴史ある街の概要
桐生市は群馬県東部に位置し、約1300年前から織物の街として発展してきた歴史ある都市です。奈良時代には朝廷に絹織物を献上していたという記録が「続日本紀」に残るほど、古くから織物産業の中心地として栄えてきました。
江戸時代には徳川幕府の保護を受けて「桐生新町」として発展し、明治時代に入ると西洋の技術を取り入れた近代的な織物工場が次々と建設されました。特に明治から昭和初期にかけて建てられたノコギリ屋根の工場群は、桐生の街並みを特徴づける重要な要素となっています。
現在、桐生市の中心部は「桐生新町重要伝統的建造物群保存地区」として国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されており、江戸時代から昭和初期までの多様な時代の建造物が良好な状態で保存されています。約13.4ヘクタールの範囲内に、商家、工場、住宅など歴史的建造物が軒を連ねる様子は圧巻です。

伝統的商家建築とノコギリ屋根が美しい!桐生の歴史ある街並みの見どころ
桐生の街並みの最大の魅力は、異なる時代の建築様式が調和して存在していることです。
本町通りを中心とした地区では、江戸時代から続く伝統的な商家建築を数多く見ることができます。これらの建物は「出桁造り」と呼ばれる建築様式で、1階部分が道路側に張り出した構造が特徴的です。格子戸や虫籠窓、深い軒先など、日本建築の美しさを存分に味わえます。
特に注目すべきは「矢野本店」や「森秀織物」などの老舗織物商の建物で、重厚な蔵造りの外観と精巧な装飾が施された内部構造は見る者を圧倒します。これらの建物は現在も営業を続けており、生きた歴史を感じることができる貴重な存在です。
一方、明治時代以降に建設された織物工場群は、桐生独特の景観を作り出しています。「ノコギリ屋根」と呼ばれる特徴的な屋根を持つ工場建築は、北向きの窓から安定した自然光を取り入れる設計となっており、織物作業に最適化された機能美を感じられます。現在も稼働している「桐生織物会館」や歴史的価値の高い「旧模範工場桐生撚糸合資会社事務所棟」など、産業遺産としても価値の高い建物が点在しています。
桐生の歴史ある街並み散策を最大限楽しむ方法
桐生の街並み散策は、JR桐生駅からスタートするのがおすすめです。
まずは桐生駅前から本町通りへ向かい、重要伝統的建造物群保存地区の中心部を歩いてみましょう。約2時間程度のコースで、主要な歴史的建造物を効率よく巡ることができます。
散策のハイライトは「桐生明治館」から始まります。明治11年に建設された擬洋風建築の代表例で、現在は郷土資料館として利用されています。ここから本町通りを南下すると、次々と現れる伝統的商家建築の美しさに目を奪われることでしょう。

撮影スポットとしては、「有鄰館」周辺がおすすめです。5つの蔵が連なる姿は桐生を代表する景観の一つで、特に夕暮れ時の温かな光に照らされた蔵群は絵画のような美しさです。また、「桐生倶楽部」の洋館建築や「水道山記念館」からの街並み全景も見逃せません。
散策時には、建物の多くが現在も住居や店舗として使用されていることを念頭に置き、静かに歩くことを心がけましょう。写真撮影の際は、プライバシーに配慮し、許可が必要な場所では事前に確認することが大切です。
最適な訪問時期は春と秋で、特に4月の桜の季節と11月の紅葉の時期は街並みが一層美しく映えます。平日の午前中は比較的静かで、ゆっくりと散策を楽しむことができます。
街並み散策と合わせて楽しみたい桐生の魅力
桐生の街並み散策をより充実したものにするため、地域特有の体験活動も合わせて楽しんでみましょう。「桐生織物参考館」では、実際の織機を使った織物体験ができ、桐生織の技術と歴史を肌で感じることができます。また、「森秀織物工房」では職人による実演見学も可能で、伝統技術の継承現場を間近で観察できます。
グルメ面では、桐生の名物「ひもかわうどん」は必食です。幅広の平たい麺が特徴的なこのうどんは、江戸時代から桐生地域で愛され続けている郷土料理です。老舗の「藤屋本店」や「めん割烹なか川」では、伝統的な製法で作られた本格的なひもかわうどんを味わえます。
お土産には桐生織の製品がおすすめです。「織物参考館紫」では高品質な桐生織のネクタイやスカーフ、小物類を購入できます。また、地元の和菓子店「香雲堂」の「桐生煎餅」も、桐生らしいお土産として人気があります。
桐生の歴史ある街並みへのアクセス方法と観光情報
桐生へのアクセスは電車が便利です。東京方面からはJR東北本線で小山駅まで行き、両毛線に乗り換えて桐生駅下車、または東武伊勢崎線で太田駅まで行き、桐生線に乗り換えて新桐生駅下車となります。所要時間は約2時間程度です。
車でアクセスする場合は、北関東自動車道太田桐生ICから約20分、または東北自動車道佐野藤岡ICから約60分です。街並み散策に便利な駐車場が複数用意されており、車でのアクセスも便利。

重要伝統的建造物群保存地区内の多くの建物は外観見学が無料ですが、「桐生明治館」や「有鄰館」などの施設は入館料が必要です。一般的には大人数百円から入場可能で、開館時間は9時から17時までが標準的です。
周辺観光スポットとしては、「崇禅寺」の美しい庭園や「桐生川源流林」でのハイキングも楽しめます。また、車で30分程度の距離にある「あしかがフラワーパーク」との組み合わせ観光もおすすめです。
桐生の歴史ある街並みで江戸時代からの風情を感じよう
桐生の歴史ある街並みは、単なる観光地ではなく、今も息づく生きた歴史そのものです。
石畳を歩きながら聞こえてくる織機の音、格子戸越しに見える職人の手仕事、そして代々受け継がれてきた建物の佇まいが、現代に生きる私たちに日本の美しい伝統を教えてくれます。
ぜひ一度足を運んで、織物の街が織りなす歴史絵巻の美しさを体感してください。
