京町家の表通りを歩いていて、ふと2階の窓に目を留める。いや、窓が低い。普通の家の2階よりも、明らかに天井が低そうな造りに見えます。これが「厨子二階」と呼ばれる、京町家ならではの2階の構造です。
厨子二階は、京町家の象徴的な特徴のひとつです。見た目の特殊性だけでなく、なぜ天井を低くしたのかという背景には、武家社会の身分秩序、税制、防火、収納の問題が交錯した京都の歴史が刻まれています。本記事では、厨子二階とは何か、なぜ生まれたのか、現代に残る例まで解説します。
この記事の要点
- 厨子二階とは、京町家に見られる天井の低い2階のこと
- 天井高は通常1.5〜1.8m、立ち上がれない高さで物置・寝所として使用
- 武家を見下ろさないという身分秩序、屋根税対策など複数の説がある
→ 京町家全体の建築要素については「京町家完全ガイド」で詳しく解説しています。 → 用語をまとめて知りたい方は「町家の建築用語事典」もご覧ください。
厨子二階とは|定義
厨子二階(つしにかい)とは、京町家に見られる天井の低い2階のことです。 天井高は通常1.5〜1.8メートル程度で、立ち上がると頭を打つ高さになります。表通りに面した窓には虫籠窓と呼ばれる縦格子の小さな開口部が設けられ、通気と採光を確保していました。
「厨子」とは、もともと仏像や経典を収める扉付きの棚を指す語です。京町家の2階が、人が常時生活する空間ではなく、物を収納する小空間として位置づけられていたことが、この呼称に表れています。
厨子二階の特徴
1. 低い天井
天井高1.5〜1.8mという数字は、現代の住宅基準の半分程度です。立ち上がれないため、寝そべるか膝立ちで動く空間として設計されています。
2. 虫籠窓(むしこまど)
表通りに面した窓は、土壁に縦格子を埋め込んだ「虫籠窓」と呼ばれる独特の開口部です。視線の交錯を避けつつ、通気と採光を確保する工夫です。
3. 物置・寝所として使用
立ち上がれない空間のため、主な用途は寝所、物置、奉公人の寝室、商品の保管庫でした。日常的な生活の中心は1階で、2階は補助的な役割でした。
| 項目 | 厨子二階 | 一般的な2階 |
|---|---|---|
| 天井高 | 1.5〜1.8m | 2.4m以上 |
| 用途 | 物置・寝所 | 居室・書斎 |
| 窓 | 虫籠窓 | 引違い窓・掃出し窓 |
| 立ち上がり | 不可 | 可能 |
厨子二階が生まれた理由
厨子二階の起源には、複数の説があります。
説1:武家を見下ろさない身分秩序
最も広く知られているのが、武家社会の身分秩序を反映した説です。江戸時代、武士が馬や駕籠で表通りを通る際、町人が2階から見下ろすのは無礼とされました。そのため、町家の2階は人が立ち上がれない高さに抑えられた、という説です。
説2:屋根税・建坪税対策
江戸時代の京都では、家屋への課税が建物の規模を基準としていました。2階を「居室」ではなく「物置」として申告するため、立ち上がれない高さに抑えた、という説もあります。
説3:防火構造
京都は度重なる大火に見舞われた都市です。2階の構造を簡素・低層に保つことで、火災時の延焼を抑える効果があった、という説もあります。
これら複数の要因が複合的に絡み合い、厨子二階という独特の構造が定着したと考えられます。
厨子二階と総二階
時代が下ると、厨子二階の制約が緩和され、立ち上がれる高さの2階を持つ「総二階(そうにかい)」の京町家も増えました。明治期以降に建てられた京町家の多くは総二階です。
| 様式 | 天井高 | 主な時代 |
|---|---|---|
| 厨子二階 | 1.5〜1.8m | 江戸時代中期〜明治初期 |
| 中二階 | 1.8〜2.2m | 江戸末期〜明治中期 |
| 総二階 | 2.2m以上 | 明治後期以降 |
中二階は厨子二階と総二階の中間で、立ち上がれるが現代住宅より低い構造です。京町家の歴史を語る際、これら3様式の混在を理解することが重要です。
現代における厨子二階の扱い
厨子二階を残す京町家は、現代でも京都市内に多数現存します。改修により総二階に変更された例も多い一方、伝統的な意匠を残すため、敢えて厨子二階のままにする物件もあります。
宿泊施設や飲食店として活用される京町家では、厨子二階を「ロフト風」「秘密基地風」の演出として活かすケースも増えています。立ち上がれない不便さを、逆に魅力として転換するアプローチです。
よくある質問
Q. 厨子二階で実際に生活していたのですか
A. 生活していました。ただし「立ち上がる」生活ではなく、寝るか座るかが基本の空間でした。商家の奉公人の寝室、家族の寝所、商品の保管庫などとして使われました。
Q. 厨子二階の家は今も住めますか
A. 住めます。ただし2階は実用上の制限が大きいため、改修で総二階化する例が多くなっています。意匠重視で厨子二階を残す宿泊施設・店舗もあります。
Q. 「武家を見下ろさない」説は本当ですか
A. 諸説の一つで、実証的な裏付けは限定的です。実際は税制・防火・歴史的経緯が複合的に作用したと考えられています。
Q. 厨子二階を見学できる場所はありますか
A. 京都市内の京町家見学施設、京町家まちづくりファンドが管理する公開物件、京町家を改修した宿泊施設などで見学可能です。
Q. 「厨子」の読み方は「つし」ですか「ずし」ですか
A. 京町家の用語としては「つしにかい」と読みます。仏具の「ずし」とは別の読み方です。
関連する用語
- 虫籠窓(むしこまど):京町家の2階に設けられる縦格子の窓
- 通り庭(とおりにわ):京町家の表から裏まで貫く土間
- 火袋(ひぶくろ):通り庭の最奥部に設けられた吹抜け
- 京町家の特徴5要素:通り庭・火袋・厨子二階・虫籠窓・坪庭
次に読むべき記事3本
参考文献・出典
- 京都市『京町家まちづくり調査追跡調査』(平成28年度・2016年)
- 西山卯三『すまいの作法』勁草書房(1989年)
- 京都市総合企画局調査『京町家まちづくり調査』各年版
- 八清「京町家事始」公式情報
公開日:2026年5月27日 最終更新日:2026年5月27日










