江戸時代から明治時代にかけて藍商で栄えた商家町の面影が色濃く残る、日本でも屈指の美しい歴史的街並みに出会える「徳島県美馬市脇町」。
「うだつが上がらない」という言葉の語源となった「うだつ」が軒を連ねる南町通りは、まさに当時の商人たちの繁栄を物語る生きた博物館です。
吉野川の舟運で栄えた藍の集散地として発展した脇町は、現在も重要伝統的建造物群保存地区として大切に保存され、訪れる人々を江戸時代の商業都市へとタイムスリップさせてくれます。白壁とうだつが織りなす美しい景観は、四国の小京都とも称される格別な風情を醸し出す「美馬市脇町うだつの町並み」をご紹介します。
美馬市脇町うだつの町並みとは?藍商で栄えた商家町の歴史
うだつの町並みで有名な美馬市脇町は徳島県西部、吉野川中流域に位置する歴史的な商家町で、江戸時代から明治時代にかけて阿波藍の集散地として大いに繁栄しました。
脇町の歴史は古く、戦国時代には三好氏の居城である脇城の城下町として発展し、江戸時代に入ると徳島藩の保護のもと、藍の商業拠点として確固たる地位を築きました。

阿波藍と吉野川舟運による繁栄
脇町の発展を語る上で欠かせないのが、阿波藍の存在です。徳島県は江戸時代から「藍の国」として知られ、特に脇町周辺で生産される藍は品質が高く、全国各地から商人が買い付けに訪れました。吉野川の舟運を利用して藍や藍染製品を運搬し、大阪や京都、さらには江戸まで販路を広げた藍商人たちは、莫大な富を築き上げました。
この繁栄は建築にも反映され、商人たちは競って立派な商家を建設しました。特に「うだつ」と呼ばれる防火壁を設けることは、財力の象徴とされ、「うだつが上がらない」という慣用句の語源となったのも、この脇町の商家建築が起源とされています。
重要伝統的建造物群保存地区としての価値
昭和63年に南町通りを中心とした約5.3ヘクタールの区域が「美馬市脇町南町伝統的建造物群保存地区」として国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。
この地区には江戸時代中期から昭和初期にかけて建設された商家、町家、土蔵など多数の歴史的建造物が良好な状態で保存されており、藍商で栄えた商家町の面影を現代に伝える貴重な文化遺産となっています。
脇町劇場と文化的価値
脇町のもう一つの特徴は、大正時代に建設された「脇町劇場 オデオン座」の存在です。
この劇場は現存する日本最古級の農村舞台として知られ、回り舞台や花道、桟敷席などの伝統的な劇場建築の要素を完備しています。現在も「阿波人形浄瑠璃」の公演が行われており、脇町の文化的価値を高める重要な施設として機能しています。
美しいうだつが連なる!脇町うだつの町並みの見どころ

脇町うだつの町並みの最大の魅力は、南町通りに連なる「うだつ」を持つ商家建築群です。
400メートルを超える通りに伝統的建造物が建ち並ぶ様子は、江戸時代の商家町の繁栄を物語る圧巻の景観を作り出しています。
うだつの構造と装飾美
「うだつ」は隣家との境界に設けられた防火壁で、火災の延焼を防ぐ実用的な目的と同時に、商家の格式を示す装飾的な役割も果たしていました。脇町のうだつは特に装飾が美しく、漆喰で仕上げられた白い壁面には家紋や縁起物の彫刻が施され、瓦屋根の曲線美と相まって優雅な印象を与えます。
代表的な建物である「吉田家住宅」のうだつは、特に精巧な装飾が施されており、鶴亀や松竹梅などの吉祥文様が美しく彫り込まれています。また、「森家住宅」では、家業である藍商にちなんだ藍の葉をモチーフにした装飾が見られ、当時の商人の誇りと美意識を感じることができます。
伝統的商家建築の特徴
脇町の商家建築は建物は間口が狭く奥行きが深い構造で、1階は店舗、2階は住居として使用されていました。外観では、格子戸や虫籠窓、深い軒先などの伝統的な意匠が美しく、特に「吉田家住宅」では、江戸時代後期の商家建築の典型的な特徴を観察できます。
建物内部では、商品を保管するための土蔵や、接客用の座敷、家族の居住空間などが機能的に配置されており、商家としての実用性と住宅としての快適性を両立させた設計となっています。特に「美馬市観光交流センター」では、復元された商家の内部を見学でき、当時の商人の暮らしぶりを詳しく知ることができます。

白壁土蔵群と石畳の美しさ
南町通りでは、商家建築と並んで白壁の土蔵群も見どころの一つです。厚い土壁と瓦屋根が特徴的です。蔵の白壁とうだつの白い漆喰壁が調和して、統一感のある美しい街並みを形成しています。
通りに敷かれた石畳も、街並みの美しさを引き立てる重要な要素です。自然石を使用した石畳は歩きやすく、雨に濡れた時の美しさは格別で、特に夕暮れ時には石畳に映る建物の影が情緒豊かな景観を演出します。
脇町うだつの町並み散策を最大限楽しむ方法
脇町の街並み散策は、車で脇町ICから約5分の「道の駅 藍ランドうだつ」からスタートするのがおすすめです。まずは「美馬市観光交流センター」で街並みの歴史や見どころについて情報収集してから散策を始めると、より深く楽しむことができます。
おすすめ散策ルートと所要時間
約2時間のコースで、南町通りの主要な歴史的建造物を効率よく巡ることができます。観光交流センターからスタートし、「藍商佐直吉田家住宅」、「森家住宅」、「田村家住宅」などの代表的な商家建築を見学しながら南町通りを歩きます。
散策の途中では「脇町劇場」への立ち寄りも必須です。この劇場では定期的に阿波人形浄瑠璃の公演が行われており、伝統芸能を鑑賞することで脇町の文化的価値をより深く理解できます。また、劇場の建築自体も見どころが多く、回り舞台や花道などの伝統的な劇場建築の技術を間近で観察できます。
絶景ポイントと撮影スポット

脇町での撮影は、南町通りの中央部分が最もおすすめです。ここからは通りの両側に連なるうだつを持つ商家建築を一望でき、特に朝の柔らかな光に照らされた白壁とうだつの美しさは息を呑むほどです。
また、「吉田家住宅」前からの眺めも人気の撮影スポットで、精巧な装飾が施されたうだつを間近で撮影できます。
藍染め体験と伝統工芸
脇町の魅力を最大限に味わうなら、藍染め体験は必須の活動です。
「藍染工房」では、本格的な藍染め体験ができ、ハンカチやTシャツなどの小物から大判の布まで、様々なアイテムを染めることができます。天然の阿波藍を使用した染色体験は、脇町の歴史と文化を肌で感じられる貴重な機会です。
街並み散策と合わせて楽しみたい脇町の魅力
脇町の街並み散策をより充実したものにするため、地域特有の体験活動や文化に触れてみましょう。
阿波藍の歴史と文化体験
「藍染工房」では、阿波藍の歴史や製造工程について詳しく学ぶことができます。江戸時代から続く藍の栽培から染色までの一連の工程を、実物の道具や資料を通じて理解できます。
阿波人形浄瑠璃と伝統芸能
「脇町劇場」では、月に数回、阿波人形浄瑠璃の公演が行われています。この伝統芸能は徳島県の無形文化財に指定されており、三味線の音色に合わせて操られる人形の動きは、見る者を魅了します。公演日程は事前に確認が必要ですが、タイミングが合えば貴重な文化体験となるでしょう。

脇町名物グルメと郷土料理
脇町のグルメといえば、まず「阿波尾鶏」を使った料理が挙げられます。また、「祖谷そば」も徳島県の名物で、「そば処 脇町」では手打ちの祖谷そばを楽しめます。
また、地元で採れた柚子を使った「柚子餅」も脇町らしい味覚として親しまれています。
お土産と特産品情報
脇町のお土産には、阿波藍に関連した商品がおすすめです。「藍の館」では、本格的な藍染製品から手軽な小物まで、様々な藍染商品を購入できます。また、「和三盆糖」や「阿波尾鶏」の加工品、地酒「鳴門鯛」なども、脇町らしいお土産として人気があります。
伝統工芸品では、「阿波和紙」を使った製品も注目です。「阿波和紙伝統産業会館」では、手漉き和紙の製品や和紙を使った小物類を購入でき、脇町の文化的価値を感じられるお土産となります。
脇町うだつの町並みへのアクセス方法と観光情報
脇町への訪問を計画する際の詳細な情報をご紹介します。
電車でのアクセス方法
脇町へは、JR徳島線穴吹駅が最寄り駅となります。徳島駅から約1時間、高松駅から約1時間30分でアクセス可能です。「道の駅うだつ」バス停に到着します。
バスの本数は限られているため、事前に時刻表を確認することをおすすめします。
車でのアクセスと駐車場情報
車でのアクセスは、徳島自動車道脇町ICから約10分と非常に便利です。
高松自動車道からは美馬ICを利用し、約10分でアクセスできます。街並み散策には「道の駅 藍ランドうだつ」の駐車場が便利で、無料で利用できます。また、南町通り周辺にも複数の駐車場があります。
営業時間・入場料・施設情報
重要伝統的建造物群保存地区内の街並み見学は基本的に無料ですが、「吉田家住宅 藍商佐直」や「脇町劇場」などの施設は入館料が必要です。一般的には大人数百円程度で、開館時間は9時から17時までが標準的です。
藍染め体験は、ハンカチサイズで数百円から、Tシャツサイズで2,000円程度となっています。体験時間は約1時間で、予約制の場合もあるため、事前に確認することをおすすめします。

周辺観光スポットとの組み合わせ
脇町周辺には魅力的な観光スポットが数多くあります。「大歩危・小歩危」は車で約30分の距離にあり、吉野川の渓谷美と遊覧船での川下りを楽しめます。また、「祖谷のかずら橋」は車で約45分で、スリル満点の吊り橋体験ができます。
「阿波おどり会館」のある徳島市内は車で約1時間の距離にあり、脇町を拠点とした徳島県の魅力的な周遊観光が可能です。また、「金刀比羅宮」のある香川県琴平町も車で約1時間30分と、四国の名所を巡る観光ルートの一部として組み込むことができます。
脇町うだつの町並みで江戸時代の商人文化を体感しよう
美馬市脇町のうだつの町並みは、単なる歴史的景観ではなく、江戸時代から続く商人文化と阿波藍の伝統が息づく生きた文化遺産です。
南町通りに連なる美しいうだつ、石畳に響く足音、格子戸越しに感じる商家の温もりが、現代に生きる私たちに日本の伝統的な商業文化の素晴らしさを教えてくれます。四国の小京都と称される脇町で、藍商で栄えた商家町の繁栄の歴史に触れ、「うだつが上がる」という言葉の本当の意味を肌で感じてください。
ぜひ一度足を運んで、時代を超えて愛され続ける脇町の魅力を心ゆくまで堪能してみてください。
